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魚的な、あまりに魚的な

 水槽は店の奥まった場所に置かれていて、その中で彼は暮らしていた。もともと少ない客がその前までやって来るのは更にまれだった。客は一瞬彼を見つめては、いい子でなと言って餌をやっては出ていく。その瞳にはまず同情と思いやりが滲み、やがてすみやかに諦めへと変わる。彼はそんなふうに見られるのがたまらなく嫌で、所在なさげに餌をついばんだ。

 客も店主もやって来ないとき、つまりは一日の大半の時間、彼は水槽の外を眺めて過ごした。世界は相当に魅力的で、まずまずの変化がそこにはあった。レジの向こうのテレヴィは絶え間なく光と音を垂れ流し、遠くに見える客の姿と話し声も悪くなかった。世界とは彼にとって、匂いと肌触りを欠いた映像だった。一方的な観察を彼は楽しみ、おれは実にいろいろなことを知っていると思っては満足した。

 多くの観賞魚がそうであるように、彼はつとめて自分が人間であると考えようとしていた。その気になればおれは、客と対等に話すことができるし、店主と決別することもたやすい。店の外でだってうまくやっていける。そういう想像に彼はしばしば浸った。一方でそうした機会が与えられたとして、自分にはどうすることもできないと知ってもいた。彼は水槽から出たいと願った。しかし彼は魚だった。外では生きていくことができない、魚なのだった。