蔵太郎

 壁がある。陽光が一面を灼き、幾重にも塗り重ねられた泥が乾いて、褐色が平たく平たいままに、上へ左右へとのびている。
 どこかに穴を開けなければ、歩いてむこうがわへゆくことはできない。
 空虚を満たす日の光が、掘削された浅い孔の奥にまでとどいている。となりでさかんにシャベルをふるうかのじょを見る。吹き出す汗がここにはふんだんにある砂塵に触れあって、着ているシャツに複雑な紋様を描き出しているが、気づいていることはおそらくない。
 もっとましな方法はないのかな、水をかけて壁をやわらかくするとかさ。
 水があるのはいつだってむこうだし、これからもそれが変わることはないんだわ。かけられるのは時間でしかなくて、あなただってとっくに了解っているのだと思っているのだけど。
 ああ、了解って、いるともさ。音を区切るたびに切っ先をたたき込む。たたき込むがさして見返りはない。層は緻密で頑強だ。年老いた木の年輪のように、人知れず泳ぐ大魚の耳石のように、費やされたものの巨きさを示しつづける。
 なにかしらの現象がここにあり、ぼくらはそれを解釈せざるをえない。壁が分厚く征服しがたいこと。大量の水が建造に用いられたらしいこと。予想と仮定の積み重ねの果てに行動が生まれて、こうしていまもシャベルをふるっている。
 こんなに汗をかいてしまって、本当に大丈夫なのかとも思う。こちらがわにとどまる限り水は与えられない。掘削がはじまってすでに相当時間が経過しているのだし、人間の限界値はそう高くはなかったように思う。
 シャベルがひしゃげるか、わたしたちがくたばるか、どっちがはやいのかしらね。思考にだって資源は使われているんだわ。掘ることだけに意識を向けなさい。
 ごもっとも。
 次のひとふりで、ほんのすこし壁がくぼむ。