残響の浜

 昔書いたやつですが、これはどう考えても詩でした。
 この時、僕は詩のための表記を知らなかったのですが、せっかくなので整え直して再掲することにします。
 甘々で恥ずかしいというのはそうだけど、どうも僕はこの域から出られている気がしないのです。
 ではどうぞ。

   ***

   「残響の浜」
            千束 累

砂浜

向こう岸からの漂着物

すべて死骸だ

死んだものは大海を漂って、
向こう岸で誰の記憶からも失われたとき、
この浜へと流れ着くのだ

やがて砕けて、浜を形づくる砂となる


ぼくは本の骨を拾って歩く
読者を失い、
解釈されなくなった本は内容を失う
骨だけが残る
その形を眺める

ある日、浜に少女が漂着する


続く海岸線
ぼくとかのじょは歩き続ける
ぼくらについて話す

世界は有限の要素から出来ていて、
だから世界は循環する

気の遠くなるほど長い要素の順列組み合わせの果てに、
はじまりの状態へと戻ることになる

生物が自己複製をやめて、
遺伝子を混ぜ合うようになってから、
組み合わせによる変化が訪れた

そうして時間は進みはじめた

歴史とは、
つまり順列組み合わせの演算だった

だからぼくらが男女だというのだって、
ただの偶然じゃない

ぼくたちは最初のふたりなのかもしれないよ

世界はぼくらからはじまって、
僕らを形作った有限の要素で作るすべての組み合わせが試され

そしてそれが終わったあとに、
またぼくらへと帰ってきたんだ

エルゴードね
この砂浜は、
いつか庭園に変わるかしら


浜の巨大さは想像を絶していた

夥しい死骸

夥しい死

夥しい忘却

もはや何かを思い出すことができる存在は、
向こう岸にはいないのかもしれない。


世界は
とっくに滅びてしまっているのではないだろうか
ぼくの感情でさえも、
もう死んでしまった誰かの、思い出されることのない想いなんじゃないか

ねえあたし、
あなたのそんな話なんて興味ないわ
あたしが興味あるのはあなたなのよ
もしもあなたの恋人がプラナリアの片割れだとして、
もしもあなたのネコがグーゴル匹のクローンの中の一体だとして、
あなたは恋人を、
ネコを愛することをやめるかしら?

あなたがたくさんいるのかいないのか、
誰のこだまかなんか関係ない
あたしが好きなのはいまここにいるあなたなの、
他の誰でもない


こたえることができなかった

たとえかのじょのこの言葉さえ、
幾千と繰り返された告白のこだまなのだとしても、
順列組み合わせのひとつなのだとしても、

構いやしないさ

はじめてそう思った


これからの世界でぼくらはきっと、
ありとあらゆるやり方で出会うだろう
ありとあらゆる愛の言葉を口にすることになるだろう
ぼくは予感する

すべての可能な男女の、
すべての可能な恋

それらすべてが僕らの愛の変奏なのだと、
どこにでもあって、ここにしかないものなのだと、

そう信じる。