Sculpture

歩いている おそらくはひとりで頭の中を通り過ぎていくだけ 景色の中を通り過ぎていくだけ肌を苛む擦過傷の群れ ここにあるとの疼痛の主張この日 ひたすらにやわらかな草原の過程で 何がわたしを刻んだのか

水子供養シリーズ

夢を摘む旅 1 邯鄲病(1) いつもの癖でこういう時は、耳の後ろを掻いてしまう。 研究室にまで呼び出されて、彼はいささかの不安を感じていた。押し寄せるタスクの山に忙殺されているであろうドクターのデスクは、しかし予想に反して完璧に整理が行き届い…

魚的な、あまりに魚的な

水槽は店の奥まった場所に置かれていて、その中で彼は暮らしていた。もともと少ない客がその前までやって来るのは更にまれだった。客は一瞬彼を見つめては、いい子でなと言って餌をやっては出ていく。その瞳にはまず同情と思いやりが滲み、やがてすみやかに…

三題

ノイズのひどい夜だった。回線を開いて名前を告げ、向こう側からの指令を待つ。 >状況は了承した。こちらとしても時間がない。速やかに《合わせ鏡》の回収に移れ. 話が早くて本当に助かる。暗がりから街灯の下に歩み出し、指定された通りに階段を上る。岸…

大いなる沈黙

大いなる沈黙:The Great Silence テッド・チャン 地球外知性を見出すために、人間はアレシボ電波望遠鏡を使います。宇宙中の音が聴こえる耳を作るまでに、繋がろうとする思いは強いのです。 しかしながら、わたしや同胞のオウムたちは、今まさにここにいる…

ミラー細胞の文法。記号と発声の対応。発声と発火の対応。それらのパターンは言語によって、また文化によって異なり、個人差もまたある。 オーダーメイドによって、同じ脳の状態を作り出す本が可能になる。書物を通じて完全な意思疎通が実現する。 舞台とな…

蔵太郎

壁がある。陽光が一面を灼き、幾重にも塗り重ねられた泥が乾いて、褐色が平たく平たいままに、上へ左右へとのびている。 どこかに穴を開けなければ、歩いてむこうがわへゆくことはできない。 空虚を満たす日の光が、掘削された浅い孔の奥にまでとどいている…

水子供養シリーズ

思い出さねばならない。残された時間は多くないのだ。 うす暗い。青味がかった鼠色の光が満たす。壁に接した小さな机。焦げ茶。鈍く光るニス。屈んだ身体に触れるぬるくしめった空気の塊。首を捻って、流れてくる方向に顔を向けようとする。頚椎の違和感。窓…

水子供養シリーズ

ガラス越しの法務官が手を振る。外部者用白衣の襟元から覗く、黄色い樹脂製の管理タグ。彼女がなんとか微笑んで見せると、法務官も強張った表情を解いて、心配ないと何度か頷く。 忙しく動きまわる数人の技師に、壁の向こうの姿は隠される。 至るところに塗…

ビギニング

公共終端に目をやると、明滅がメッセージの到着を静かに示した。そのまま内容を読むことなく画面を落としてしまうと、彼は座っていたベンチを後にして歩きだした。 川沿いに散り散りになって生える木々はもうすっかり落葉して、遊歩道はくすんだ暖色で満たさ…

反響の部屋(仮題)

油滴も風鈴の音も絶えて、おれは否応なしに内省的になっていった。ぴくりとも動かぬ寸白に苛立ちを感じ、そうしておれをここに追いやった連中について思い出そうとした。 その巨泡に名はなかったが、世界最大の泡体であることに疑いをさしはさむ者もまたいな…

これはいわば迂遠な侵略なのだと博士は言った

これはいわば迂遠な侵略なのだと博士は言った。われわれの記憶、われわれ自身のあり方を書き換えようとする一連の働きなのだと。そして最もたちが悪いことには、書き換えは富める者から順に進行するのだ。 物語ることのできない物語。彼らは惜しいから話すの…

前略

車両を歩き前へと向かう。車掌と、誰か女性の声が聴こえる。興味もない相手との関係は切るべきだと声は言う。車窓から世界が見える。ガラスに閉じ込められた、錆びついた金属の骨格。凍てついた町。気がつけば車掌も女性の声も消えていて、僕は体がすっぽり…

「この奥に」 座っていた女が囁いた。わたしは音を立てぬように歩を進めた。 * 依頼を受けたのは数ヶ月も前だった。ひとつの大きな仕事を終えて、わたしはまだその町の酒場に入り浸っていた。酒を奢りたいという者は絶えずあらわれたし、わたしの側にも喜ば…

ホゲーホホ

排水口が詰まり、子どもたちはどろどろしたものを掻き分ける。堰き止まった球体が発見され、水で洗うと光を通す。宝玉は今でも居間の中央に飾られている。別の話。都市の排水部、ある日の大水で私はそれを拾う。別の話。マルクスと器官。別の話。痛みを感じ…

悪夢

我々は腸内に生息する動物や植物の食べ方を考えていかねばならない僕は深海が溺れると書くことができる鶏

11.2015(sat)

対岸を歩く。 ザリガニの群れのような建機センター。流れる車列。清掃センターの煙突が点滅をまとって、高圧電線は向こう岸へと続いてゆく。 丘にへばりつくようにして家々は広がり、残された緑も今や切り崩されつつある。建設機械はここからは見えないけれ…

どうすんだろこれ

あるとき降り立った複数の宇宙船。住宅区画は焼き払われ、統治機構は学校の設備を住宅に利用した。 港湾労働者の男女。宇宙人の巣を見つけてしまったふたり。宇宙船を見にゆく恋人たち。「高校」を目指して旅を続けるふたり。 // 【海岸までの距離:五キロメ…

貝塚

印象:・故障が多い装置: ・巨大 ・間違いと間違いが打ち消し合い 正解を生み出す ・全容は 誰も知らぬ ・形状: 巨大な筒 cf.偕老同穴 細く繊維が撚り合わされ 構造を形成 ・人間が居住 印象:・読み捨てられた本・その姿態・死体とも・排泄物: 行為の結…

はい

『機動戦艦ナデシコ』を見た いいものですね。緻密なSF設定と美少女とコメディ、オタクの好きなものが全て詰まったアニメでした。暇つぶしにおすすめです。 ただ人はどんどん死にます。戦争だからです。ところで僕はコメディタッチで人が死ぬことに懐疑的で…

これも詩と呼んだほうがしっくりくるし、形にしてもこの方がいいだろ

少年は電算機の中を走っている。踏みしめる地面が、感じる気流が、運動する筋肉が実在のものであることを、一度たりとも疑ったことはない。彼は走り、走るが、その結果が現実へと反映されることは(私たちがふつう思い描く範囲では)ない。ほんとうのところ…

クレーター

これも昔書いた詩です。 どうもヘボだなあと自分では思います。投稿をやるにしてももう少し先になりそうです。 ***星は死にかけていた。生まれてまもない頃、天空から受け取ったたくさんの熱量は、いまや枯れようとしていて、なけなしのラジオアイソトー…

残響の浜

昔書いたやつですが、これはどう考えても詩でした。 この時、僕は詩のための表記を知らなかったのですが、せっかくなので整え直して再掲することにします。 甘々で恥ずかしいというのはそうだけど、どうも僕はこの域から出られている気がしないのです。 では…

文体についてほか

人間には――それもある種の人間には――小説を書かずにはいられない時期というのが必ず存在しーー当然だ。だってそれはある種の人間に限って訪れるのだから――存在し、そして僕にとってはそれは今なのだと、そう僕は信じている。この文体はもちろん、村上春樹か…

やかんの上の日常

少年は電算機の中を走っている。踏みしめる地面が、感じる気流が、運動する筋肉が実在のものであることを、一度たりとも疑ったことはない。彼は走り、走るが、その結果が現実へと反映されることは――私たちがふつう思い描く範囲では――ない。ほんとうのところ…

一円

一円 眺望はいつでも素晴らしかった。 静止しているかに見える凍てついた連峰に焦点を合わせると、強風が粉雪を巻き上げているのがくっきりと見てとれる。昨日と変わらぬ荘厳な景色。色収差も歪みも少ないカール・ツァイスのレンズは、今日も存分にその機能…

赤い実

馬鹿野郎おれは雰囲気短編が好きなんだ。 虚無界隈の絵師に。 *** そうして、少女は瞼を開く。 際限を失ってひろがる青磁の平面。くたびれた布団が一角に敷かれ、上体を起こした彼女はおおきく伸びをする。 空気は澄んで冷涼だ。まとったワンピースに装飾…

夏への障子

引っ越しをした。 家から家にではなくて、部屋から部屋にである。 世帯構成員に比して部屋が多い。資産家であるとかそういう話ではなく、郊外で中古だとそういうことにもなる。 今まで使っていた二階の部屋は暑く(熱気が昇るのに加えて、エアコンのリモコン…

(日本)近現代文学・レポート

ちゃちゃっとやっつけたぞ。もうちょっと量を増やせたら、pezo.blog.jpに移すかも。 *** 作品について 『都市と都市』は英国人作家チャイナ・ミエヴィルの、現時点での代表作である。 ふたつの都市〈べジェル〉と〈ウル・コーマ〉は、欧州において地理的…

五色の舟

『五色の舟』という題のまんがを読んでいる。 「文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞!」そういう惹句が帯に踊っていた。 ページを繰ってみると、実際、よいまんがなのだ。 戦中の日本で、小さな見世物小屋を営む一座が登場する。 身体欠損を見せ、芸を…